7、隠れ家
小説:スペイン太平洋航路目次
海部川上流の山中に、海部氏の隠れ家があった。
住人は山や畑の仕事をして暮らしているのだが、
その家屋は確かに海部氏のものだった。
一族の長老が住んでいて、友光が子供の頃、訪ねると、
海部氏伝来のものだという、不思議なものを見せてくれた。
外側にたくさんの丸いへこみが付いている、
かすかに黄色がかった、透き通ったガラスのお椀。
これがいくつもあるのだが、長老の話では、ペルシャのものだと言うのだ。
色とりどりの鳥の羽を貼り付けて描いた、木の下に立っている長い衣の女性の絵。
この貼り付けてある羽は、外国の鳥のものだと言う。
外国のと聞けば、なるほどと思えるような、大きくて派手な色の鳥らしい。
竹のまきすのような物も大量にある。
みんな、海部の先祖の由来を語る物なのだそうだ。
先祖は昔から海を行き交うことを仕事にしてきた。
遠い昔には、外国を行き来していた。
長老はそう言うのだった。
とても大切な物だから、海岸近くには置いておけないので、ここで預かっている。
今の世の中はとても物騒だから、ここのことを、忘れないように、と言うのだった。
太平洋を回ろうとしているスペイン。
彼らと手を組むのは、先祖の仕事の続きではあるまいか。
京や堺の騒乱は、いつ誰が寝返るかわからない。
讒言と陥穽と暴力に満ちた世界であり、全く予想もしない方向に展開するのが常だった。
こういう混沌に比べれば、大海を渡る話の方が、おもしろいのは当然だった。