偽イシドールス法令集(教令集)
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 偽作の実例は、遺物・報告、どちらも古今東西に渡って極めて多いが、これは西洋で最も有名なものである。

 9世紀に、セビリアの司教イシドールスの編と称する、教皇法令集なるものが出された。しかしその中には多くの偽作が含まれていた。しかもそれらは、いずれも、教皇権が大であることを基礎づけるものだった。

その最も有名な一つ「コンスタンティヌスの寄進状」は、ローマ皇帝コンスタンティヌス一世が、改宗の際に、ローマ教皇にローマ・イタリア・西方諸地域の宗教上の至上権のみならず、統治権をも寄進したことを記している。

この寄進状は、中世を通じて本物と信じられていたが、ルネサンス時代にその真実性が疑われ、ラウレンティウス・ヴァラが、歴史的批判的方法によって、それが偽作であることを証明した。

ただし、この偽作の制作年代・場所・作者については、その後の研究者によっても、なお、明らかにされていない。



林健太郎著『史学概論』有斐閣より