兵庫北関入船納帳(ひょうごきたぜきいりふねのうちょう)
文安2年(1445年)の1年間に、東大寺領、兵庫北関(現在の神戸港付近)を通過して、京都方面へ向かった主要船舶の、積荷・関税額などを詳細に記録した史料である。
記録された港湾は、瀬戸内海を中心に太平洋側に及び、15世紀前半の日本の経済・商業の状況を知る上で、貴重なものである。(関連:兵庫関)
林屋辰三郎氏の発見
1964(昭和39)年、当時立命館大学教授だった林屋辰三郎氏は、京都寺町の古書店で、古文書を無造作に入れた
紙魚(しみ)による虫損がひどくて、発見当初はページを繰るのもほとんど不可能だった。このため翻刻作業は大幅に遅れて、発見後16年たって、ようやく公刊された。それが林屋辰三郎編『兵庫北関入船納帳』中央公論美術出版・昭和56年(1981年)である。
元は480ページに及ぶ厚い帳簿だったと推定されており、現在ではその冒頭部分44ページが落丁しているが、それでも430ページを越す大冊である。粘葉装(でっちょうそう)の厚手の和紙。同年正月、2月分は東大文学部国史研究室に収蔵されていて、1年間分の関税記録がほぼ完全な形で姿を現した。
ハンザ同盟都市リューベクの輸出入関税記録(1368〜69年)は、世界最古の関税記録と言われている。これは、それに次いで、世界史上2番目に古い本格的な台帳である。しかし、リューベクの記録は、関税賦課当時の伝票や帳簿ではない。それら原資料に基づいて書かれた二次的な記録である。従って古さの点では譲るとしても、その精密さ、一次史料という点では、「入船納帳」の方が、格段に上である。
記載内容
入船月日・船籍所在地・貨物名・数量・関銭額・納入月日・船主名・問丸名が記載されている。
船籍地は、入港船舶の所属港のことであって、必ずしも物資の積出港ではない。例えば、阿波の吉野川下流域で産する藍玉を、淡路由良港所属の船舶が兵庫まで運搬するといったことは多い。しかしおおむね物資産出地近辺の港湾の船舶で運送されているので、物資の産地を推定することができ、かつ年間の輸送量が統計的に判明するわけであるから、史料的価値は高い。
参考文献
a.. 今谷明『日本の歴史20』中世II - 琵琶湖と淀の水系、週刊朝日百科
b.. 千葉県佐倉「千葉国立歴史民俗博物館」資料NO.16・「兵庫北関入船納帳にみる港湾と物産」