『ものの見方の始めについて』(2011年改訂版)改訂中

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はじめに〔点より小さな家〕
私がまだ地図というものを知らなかった、小さい頃の話である。

雑誌の裏表紙に、枠線だけの絵があった。
何の形なのか、考えてもわからなかった。
しかし、何だか大事そうに見えた。

意味ありげに思えたので、私は祖母に聞いた。
「これなあに?」

すると祖母は答えた。

「これは日本の地図。Kちゃんの家はこの辺。
この家は、この地図の中では、針で突いた点よりも小さいの。」

祖母は持ってきた針で、小さく点をつけた。

この話は私に不思議な感銘を与えた。自分の家が点より小さく見える高いところがあるのだ。
想像の中で、しばらくその高みで見おろしてみる。

この家が点より小さいなんて、恐ろしく高いところなんだろう。
いくら考えても想像しにくい世界だったが、その高みに到達しようと懸命にやってみた。

しかし、ふと我に返って周りを見ると、点より小さいはずだった家は自分よりはるかに大きいし、
何より自分がものすごく大きいような気がする。

何と言っても、ちょっと前まで、自分に目や鼻というものがあり、手や足というものがあるのも不思議だった。
ころんだら血が出て痛かったりする。全く油断できない。

自分に、体という、操作する必要があるものがある、という感覚からすると、
自分というのはものすごく大きい何かのような気がする。

まだまだそんな感じだった。それなのに、家が点より小さく見える所を想像しようとしたのだ。


目次:
 1、戦争の影と世界観
 2、サイエンス描く世界
 3、物質だけの存在感
 4、ものとことば
 5、元東大総長が書いた東大教科書との衝突 
 6、科学と歴史学とマルクス主義
 7、人体基準の認識枠
 8、 時間よ止まれ
 9、社会と情報
10、 マルクス主義の分布状況
11、冷戦とマルクス主義
12、 歴史学における事実
13、事実の3レベル
14、社会の外観から考える
15、終わりに
補足1、宇宙時間表
補足2、今井登志喜『歴史学研究法』と私